立体写真の花道

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 レンズつきのキャップ,という体(てい)の,興味深い機材群が存在します.王道でも正統でもない,立体写真の花道を行くキャップの頁.


キャップかレンズか

 デジタル一眼レフを購入した(2005夏)ものの,そんなに沢山のレンズを使いこなせる技術も,購入する経済力もなく,マクロ・ステレオ以外に挑みたいテーマも意欲もなく,しばらくは一本のレンズを付けっぱなし(その先のバリミラも)にしておりました.あるとき,ネットを徘徊していると"Loreo 3D Lens in a Cap"なるものを発見.速攻で購入(2005秋).二本目のレンズ(?)となりました.これがなかなか良いです.


Loreo 3D Lens in a Cap を装着した *ist DS

 国内でも取り扱っている業者があり,注文して2日目には商品がとどいて一コマ目を撮影できました.各社のマウントに対応しており,区別して注文します.筆者の場合はペンタックスの *ist DS に装着するわけです.

 ところでこの物体,キャップなのか,レンズなのか,キャップにレンズがついてるモノなのか曖昧な名前ですが,筆者はレンズだと思います.値段的には,普通のレンズよりは安く,キャップとしては高いです.機能的には(他のレンズと排他的な関係にあり)あきらかにレンズです.一人前にシリアルナンバーが入っています.
 あと,少なくともコレがキャップでは有り得ないと考える理由は;

これにキャップをはめたいな

コレ用のキャップが売ってたら買うのにな

と思うからです.
 正面の透明板部分に傷が付かないか非常に心配です.お尻のキャップも付いていないので,これには純正品を別に買いました(苦笑).

 さて,外見はペンタックスのステレオ・アダプターなどと似たシュモクザメ状です.つまり鏡を組み合わせて左右用の画像を並べて同時に撮る”ビーム・スプリット方式”というやつです.ただ,レンズも入っている点,ボディーに直接装着する点が異なります.
 ステレオベースは実測で約45mm.
 構造は簡単で,鏡のシュモクザメ部分の根元にレンズ(38mm,f11)が左右に一枚ずつと,その前にに絞り板がついています.レンズは使い捨てカメラ(レンズつきフィルム)級の焦点深度の深い一枚モノのようです.絞りはまわりから羽板が絞めてくる,ああいう構造ではなく,孔のあいた板がかぶさるとf22になるという…そういう構造です.
 いちおうフォーカスが調整できるようになっていて,距離レバーを操作すると,レンズが少し前後に移動します.でもファインダー像が暗いのでピントを合わすのは困難です.もちろんオート・フォーカスはもちろん,自動絞りもできません.
 ミラー部分は非対称の凝った作りです.何でまたそんなヤヤコシイ事を,という気がしますが,平行法配置の像を得るための工夫なのです.右レンズで左目画像を,左レンズで右目画像を撮る必要があるからです.


解剖図:レンズ部分には絞りと距離調節機構がある

解剖図:非対称なミラー部分は結構トリッキーな形状

 作りは非常にチャッチイです.木ネジで組み立てられており,D社だったら105円で商品化できそうです.

シシウド
400*267 (100%)

 使い方は,基本的にはペンタックスのステレオ・アダプターに似た感じです.ただし,ステレオ・アダプターが他のレンズと組み合わせて使うのに対し,コレは全て込みなので,そのぶん使い方も単純です.
 一体型のデジカメ+アダプターの場合(下図),普通はズームレンズがアダになります.いちいちアダプターに合った焦点距離を調整する(画角を選ぶ)必要が生じるからです.またネジ込むのでアダプター自体の水平を合わす必要があります.”撮ろう”と思ってからけっこう手間が掛かります.


こちらは一体型デジカメにステレオ・アダプターを装着するパターン

 本品ではそのような必要がなく,ボディーにキチンと嵌めた時点でファインダー上には水平で適当な間隔のペアが並んでいます.
 さらに上記のようにフォーカスを厳しく合わせる必要もなく,厳しく合わす意義も感じられないので,とにかくファインダー上に適当な構図をつくって撮ることだけに専念できます.
 ボディーに嵌めてファインダーを覗けば既にシャッターが切れる状態です.嵌めたままならスイッチオンと同時に撮れます.そういったあたりの「お手軽さ」が全然違うのです.
 出来てくる画像は中央に細い縦筋が入るだけで,無駄になる部分が少ないです(ボディーとの組み合わせにもよりますが).
 気になるのは暗い(f11/22)ことです.感度はいいか?←手ブレ速度に落ちてないか? に注意する必要があります.


同類あるいは後継器

 Loreo 社はその後もステレオ界を快走.もちろん,チープ路線でリードし続け,ヘンテコな機材を提供しています.素晴らしいです.


3D Lens in a Cap 9005


マイクロフォーサーズに装着

 上記の "Loreo 3D Lens in a Cap" の直接後継機は"Loreo 3D Lens in a Cap 9005"という最後まで読まないと違いが分からない名前の器具です.

 「どこがキャップじゃ!」というツッコミをよそに巨大化,高機能化の道を突き進み,ステレオベースが9センチに拡大(立体度が従来品より倍増.人体比約1.5倍),距離環(環ではなくスライダーか)もよりソレらしくなり,フォーカスを合わすことができる気がします(前のは当てずっぽうでした).さらに距離環と連動して輻輳が調整されます.焦点距離40mmのレンズ(二分割するので画角は狭いです)が繰り出されると内側を向くようになっているわけです,きちんと「ひんがら目」を実現する正当なメカニズムです.
 はっきり言って,プラスチック製の部品がカチョカチョと動く,精度の悪い,何か遊びの大きい造作です.しかしそれは確かに意図どおりに作動しており,明らかに目的どおり機能しています.要するに,やるべきことをきちんとやっているのです.本当にちゃんとやっている,それが分かります.チャチだからこそ感動します.

 ただし,この「チャチさ」は軽さによっても強調されているのかもしれません.WEBで商品画像を見て発注して楽しみに待っていると,届くのは予想外に大きく,同時に,意外に軽い機材です.たぶん多くの方が驚くと思います.考えてみるとガラス部品が一枚も使われていないのですから,当然なのでしょうが.

 渾身のプラ製メカ装備の反面,要らないものは何も付いていません.電気部品,電子部品は皆無です.オートフォーカスはもちろん,自動絞りもありません.絞り優先で手動絞りで撮影するのです.もちろんそれで十分なのです.体裁を整えるために一応ソレらしいものを装備しとく,無駄を承知で … そういうことをしていないのです.この「排除」こそが「ちゃんとしている」の本態のように思えます.

 APS-Cとフォーサーズ,マイクロフォーサーズ(m4/3)に対応しているようです.注文するときに指定することになっています.
 筆者はよく考えもせずに m4/3 のボディー,DMC-GH2 を買ってしまっていた(こんな経緯で)ので,それ用のマウントのを買いました(2011).こんどは Loreo 社から直接購入.後述の3Dマクロ(9006)のついでに発注したら,マウントが違うが大丈夫かと確認のメールが来ました.ちゃんとしてます.顧客信頼度が大幅アップです.
 m4/3の小さなボディーに装着すると上図↑の状態です.カッコだけの m4/3 にはペンタプリズムは入っておらず,とても軽量です.ひょっとしてボディーもレンズもガラスなしでは? で,このレンズ,否,キャップも軽量なので,手に持つと変な感じです.

 先代もそうでしたが,こんどのはもう明らかにキャップではありません.58mm 径のキャップが付いてきます.これもキャップだとすると,two simple Caps on a complex Cap with lens 状態です.今度のはシリアルナンバーがないようです.
 LOREO社の「キャップ」へのこだわり,あくまでも「レンズつきのキャップである!」とする立場は,ポリシーというよりシタタカな関税対策なのかもしれませんが,本当のところは不明です.


3D Macro Lens in a Cap 9006


Loreo 3D Macro Lens in a Capを装着した *ist DS

 さらに"Loreo 3D Macro Lens in a Cap 9006"というマクロ用レンズもあります.この品名,慎重に見比べないと前者と区別しにくい事もあり,最後に 9006 とつけて区別するようです.

 これ,ステレオベース20mm.虫や花を撮りたい筆者の撮影志向からすると,非常に利用価値の高い機材です.しかも安い.ところが,これが発売されたとき(2008)に気付くのが遅れ,買い損ねてしまいました.直後に何やら不具合でリコールとかの情報が流れ,在庫切れ.に,なっている状態で初めてその存在を知りました.
 これは再発売されたら是非欲しい,絶対買うぞ,早く欲しいすぐ欲しい今欲しい … と思っていたので H-FT012 に触指が伸びてしまい,高価なボディ DMC-GH2 まで買わされてしまったのかも(別頁のコレ).
 2010年末に”2011年一月下旬に再出荷”とのアナウンスが出て,下旬になっても変化がないのでメールでせっつき,出荷と同時に発注して入手,嬉しいっす.ペンタKマウントを選択しました.*ist DS の三本目のレンズに就役です.いまだにペンタックスの純正品0本(けったいな3Dレンズ(?)が2本というか2個とシグマのマクロが1本).前述の"9005"に比べ,この"9006"は商品画像を見るかぎりいかにもレンズらしい佇まいなのですが,届くと予想外の軽さでした.こちらには7桁のシリアルナンバーが入ってます.

 レンズはたぶん”レンズ付きフィルム”に入っているような,あるいはトイカメラ級の玉で,撮れてくる画像はそれぞれ甘いです.”高精度の撮像素子様には申し訳ないのですがこの程度でご勘弁を”級のゆるゆるの像を結びます.ちゃんとした写真を撮っている方には問題外の画質だろうと思います.
 パナソの H-FT012(小さな二つの光学系が並列している)とは異なり,ビームスプリット方式で光軸を分けています.結果的に平行法配列で像が並びます.ペラペラの鏡で曲げてるだけでして,部品の工作精度も組み立て精度も高くなく,ステレオペアとしての揃いは良くありません.筆者が授かった個体はかなり上下にズレます.
 筺体は柔らかいスチロール系のプラスチックで,フィルターマウントが変です(うまく食いつかず,削れそう).リコールの原因はコレだったらしいのですが,あまり改善されてないのかも.
 しかし,さほど精細な写真を撮っているわけではない筆者にとっては,まったく問題のない機材です.”左画像になります,右画像になります,以上で宜しかったでしょうか?”級.これで十分なのです.宜しかったですし,宜しいですし,宜しいでしょう.素晴らしうございますでした.

 筆者の虫撮りの主力はペンタックスの *ist DS と シグマの 50mm マクロ+バリミラージュです(こっちの頁).これとの使い分けが微妙なところです.主力のステレオベースは非常に狭く,撮影倍率1/2程度のときで10mmたらずです.小さな虫を撮るには適しています.被写界深度は浅く,背景はあきらめて撮る世界です.プリズムなので色収差も避けられません.
 それに対して花や大型のチョウ程度のものになると,この Loreo Mocro "9006"が適しています.ある程度奥も撮れ,色ずれの無いマクロ・ステレオが撮れそう,素晴らしい.
 ステレオの規模からいうと,ステレオベース10mmの Lumix H-FT012 + DMC-GH2 (+クローズアップレンズ)の組(ふたたび別頁のコレ)もあり,間を埋めてくれます.こちらは画角が広く,あとでSPMで切り取るのに向いています.をぉ,充実してきたぞ.
 当然なのですが,軽すぎる Loreo Mocro はデジイチ *ist DS 本体との重量バランスが変です.特に普段装着している シグマの 50mm マクロ+バリミラージュの組み合わせでは非常にレンズが重く,それとの落差で変な感じです.

 実際に,このデジイチ(*ist DS)に付けて使ってみると,難点が二つ.1)暗い,2)狭い.要するにレンズとしての根本的なとこで疑問符が付きます.正式のレンズではないから許されるのでしょうけど,Loreo 社の[キャップ]へのこだわりはポリシーでも関税対策でもなくエクスキューズなのかもしれません.
 ステレオベースが20mmであることからすると,お料理とか,お菓子とかを撮る事を想定していると思うのですが,例えばカレーライスを撮ろうとすると,席から立ち上がって一二歩下がらないとお皿がファインダーに収まりません.そんな画角の狭さなのです(60mm相当).
 また,開放でもf11なので室内ではISO3200で手ブレ速度です.かなり暗いです.本体内蔵ストロボは浅い角度の影ができるので使いたくないのですが…
 このような状態でファインダーを覗き,距離環を回していると,たしかにソレが機能していることは分かります.しかし,像を見てピントを合わせる事はできません.機能しているだけにハズしたくないのですが,合わせられないのです.もどかしい.[行き過ぎて,戻りすぎて,その中間辺りで…]みたいな決め方になります.
 お花相手なら大丈夫ですが,虫さん相手には使えそうにありません.逃げられます.

 このような極端なレンズの場合,ミラーレス一眼のライブビューが有用です.この有効性はあまり喧伝されていませんが,某先輩のサイトで指摘されており,実際にそっちのボディーに付けてみて,なるほどと実感しました(で,受け売りでここでも主張).
 ミラーレス一眼のファインダー像は,いかにも”ニセモノ”っぽく,後ろめたいもののように思われがちです(少なくとも筆者はそう思っていました)が,一眼レフとは異なる特性を持っています.一眼レフでは不可能な事を実現する可能性を秘めているわけです.[動画を撮れる]であったり,[見ながら撮れる]であったりします.
 ここで注目したいのは[暗くてもじっくりフォーカス可]という点です.ライブビューを具えるミラーレス一眼が一眼レフに対して持つ優位性の一つです.暗いレンズに対しても,暗黒の像でも人が見られるように修正たうえでユーザの判断を仰ぐ,とても役に立つ機構を(当然のように)具えています.電動アシスト自転車みたいな,適切なアシストだと思います.
 けっきょく,このレンズキャップはデジイチ(*ist DS)よりもミラーレス一眼(GH2)に向いていることがわかってきて,レンズキャップの底にPK:m4/3アダプタが居座る事になってしまいました.このアダプタは角度がネジれて装着されるやつなので,微妙な角度で半ケツ状態です.気持ち悪ぅ.

 なお,この"3D Macro Lens in a Cap 9006"も(VariMirage ほどではないにせよ)多少の色収差を生じます.その点は意外でした.


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